先ず、この写真について説明したい。
これも「鉄人28号」の写真を撮ったNishitani氏の作。
彼は偶然見上げた夜空に「左目を閉じてウィンクしている黒猫」を見たらしい。
その後、右目である「月」を反転させ、この猫の左目を作った。これが写真という範囲
を越えてしまうものかもしれないが、グラフィック・デザイナーとしての彼の「作品」
という判断で、使わせてもらうことにした。
フランスの「キャバレー」は「ムーラン・ルージュ/赤い風車」のような劇場もあるが、
今回はもっと小さなキャバレー、19世紀末にモンマルトルで花開いた芸術家の溜まり場、
「シャ・ノワール」について。 シャとは猫、ノワールとは黒、黒猫という意味になる。
当時、この店には夜ごと夜ごと綺羅星の如き芸術家が集っていた。
その様を想像する人間に、現在でも、芸術都市「パリ」の魅力を振りまき続ける。
当然だがその店にはピアノが置いてあり、エリック・サティはよくそのピアノを弾いた。
彼は1866年に生まれ、1925年に亡くなる。 有名な「ジムノペディ」は1888年の作。
(完成まで26年という大作、ヴァーグナーの「ニーベルングの指輪」の完成が1874年)
昔、こどもの頃、音楽室には、ヨーロッパの作曲家の絵が何枚も飾られていた。
バッハなど「音楽の父」だそうだ。 私見だが、彼には実の子はいる、有名な音楽家も
多数生まれた特異な家系である。 しかし、音楽上の子供とは誰だ。 子がいなければ
父とは言えないだろう。 そして、ヘンデルが母? なにを理由に?
今それを言わずとも、ドイツロマン派の脆弱な足元(ちょっと言い過ぎ)を、世紀末に
サティがキャバレー「黒猫」のピアノでも揺さぶっている。
音楽の革新者として、ヴァーグナーもサティもその功績は同等に判断される。
現在では音楽室の壁はどうなっているのだろうか。 彼の絵は? いや、彼の写真は?
昔は情報が少なかった。 恐ろしいことだが、このように常識は時代で変わってゆく。
情報はたくさん手に入る時代になったが、それ故に正しい判断が出来るわけでもない。
情報を読み解くのは難しい。
以前、ジョン・ケージの「4分33秒」を紹介したと思う。 この数字は「273」を暗示
しているので、絶対温度から考えれば、例えば摂氏0度になる。
途中に時間が空くが、ケージはサティの後継者のひとりだろう。
サティの曲で「ヴェクサシオン」という長い曲がある。 1893~1895年に作曲。
これは、ギネスブック認定の長い曲だ。 一応、演奏時間は18時間くらいか。
なぜなら、1枚の楽譜しかないが、演奏を840回繰り返すように指示してあるからだ。
なぜ、840回なのか。 ヴェクサシオンは「嫌がらせ」みたいな意味らしい。
「840」を指定した理由はどうしても思い付かない。
先ほどの「指輪」だが、これも長大だ。 4日掛けて上演されるのはご存知の通り。
しかし、この上演時間を考えると、演出にもよるが、16時間くらいになるだろうか。
誰にも言ったことのない意見だが、指輪より長い曲になる、とは考えられる・・・。
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