最近録画したNHKの番組を見た。 それは10年くらい前の、つまり世紀の変わり目に
つくられた番組を、最近になって再放送したものだった。
確認のために調べてみると、20世紀が終わろうとするときに制作、放送されていた。
そして、2003年春にも再放送されていたようだ、バグダッド陥落の直前に。
タイトルは「世紀を刻んだ歌・静かなる祈りの反戦歌」。
ここに、有名な「花はどこへ行った」という歌が詳しく紹介された。
話はロシアから始まる。
ロシアのノーベル賞作家「ミハイル・ショーロホフ」の小説「静かなるドン」、
作中に、「コローダ・ドゥダー」というドン河流域に暮らすコサック達の子守唄が
出てくるそうだ。 大意はこのようなものらしい。
アシの葉はどこへ行った?
少女たちが刈り取った
少女たちはどこへ行った?
少女たちは嫁いで行った
どんな男に嫁いで行った?
ドン川のコサックに
そのコサックたちはどこへ行った?
戦争へ行った
この曲の作者として知られる「ピート・シーガー」は、赤狩りの時代を経験している。
1955年には「非アメリカ調査委員会」にも召喚された。 活動停止の期間もあった。
そんなとき、彼はこの大作を読み始めていた。
そして、飛行機での移動中に、この一節に出会い、霊感を得たという。
僅か、20分でこの曲は書かれたそうだ。
花はどこへ行った?
若い娘たちが、すべて摘んでしまった
その娘たちはどこへ行った?
男たちのもとへ行った
その男たちはどこへ行った?
彼らは戦争に行った
どれほど永い時間が経てば、彼らは気がつくのか
ところが、ここまででは現在、私たちが知る曲として完成されていない。
この曲の辿る運命には驚かされる。 不思議という糸が織り込まれているようだ。
そしてその糸が幾度か表に現れ、この曲を名曲へと育てていった。
ここに、もうひとりの男が登場する。
「ジョー・ヒッカーソン」、現在は民族音楽の研究者である。
彼は大学院生のとき、仲間内でこの歌をよく歌ったそうだ。
ところが、曲が短すぎて盛り上がりに欠けると感じていた。
そこで、また奇跡が起こる。
彼は内容を充分に汲み取り、3番に繋げて詩を作り上げたのだ。
それが、私たちの知る4番,5番となった。
兵士たちはどこへ行った?
彼らは死んで墓に眠る
その墓はどこへ行った?
全ての墓は花に覆われた
どれほど永い時間が経てば、私たちは学ぶのだろう
これに由り循環が完成し、東洋的輪廻も感じさせながら歌は繰り返す。
そして、1番に返り、また最初から。 そして、1番に返り、また最初から。
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この曲は、現在受け止められているほどの「反戦歌」として生まれた訳ではない。
しかし、時代がこの歌を育てていった。
ひとつのニュース映像が、心の奥底に突き刺さったからだ、と言われている。
それは、ヴェトナム戦争中の現地の様子だった。 場所はケサン基地である。
有名な68年のテト攻勢の最中、北ヴェトナム軍に包囲された前線基地内の映像。
まだ幼い面差しの兵士たちが集まり、自らのギター伴奏で、この歌を口ずさむ姿は、
泥沼にはまり込んで苦しむアメリカが何に気付くべきか、静かに理解させてゆく。
三人の霊感が撚り合わされ、時代とともに、その使命が明らかになっていった歌。
まさに、20世紀を代表する一曲として生き続けている。
世界中で歌われ続けているが、それはこの歌が「歌われなくてはならない状況」が、
未だに続いているから、とも言える。
その意味では、この曲の育ての親は「不幸」である。
そして、その不幸の親は、いつまでも学ばない「わたしたち」なのだ。
Musik
この番組にも出演していたマリー・トラヴァースの訃報を聞くことになった。
この曲を彼等の歌で知った人は多いだろう。
最初は、マレーネ・デートリッヒの歌を選ぼうと思っていたが、今回はPP&Mで。
Where have all the flowers gone?