前世紀の最後の年、nhkで始まった番組がある。
「プロジェクトX~挑戦者たち~」。
日本の技術的革新を支えた現場の様子をドキュメンタリー風に紹介した。
記念すべきその第1回目の放送、選ばれたテーマは、
「伊勢湾台風」で失われた命と財産、それを二度と許すまいと立ち上がった男たちの伝説。
1959年秋、潮岬に上陸した伊勢湾台風、死者と行方不明者は合わせて5,000人を超えた。
接近する台風の情報を手に入れたい、被害を最小限にしたい。
彼等は富士山頂に、気象レーダー建設を実行する。 日本最高峰の山頂に。
現在、そのレーダーも役目を終えた。
観測機器を厳しい気象条件下で格納していた「レーダー・ドーム」も地上に降ろされた。
かつては、富士山の近くまで行くと、このレーダー・ドームが山頂に見えていた。
今では懐かしく思い出される景色。 現在は富士吉田市の「道の駅」に隣接して展示されている。
ドームは建築物としてはジオデシック・ドームである。
5角形と6角形で組み合わされた、表面積が小さくて容積の大きな建造物。
軽くて丈夫で、全方向の風に耐え、「富士山レーダー」を守り続けたドーム。
敬意と感謝を込めて。
当時、気象庁の担当者で工事の指揮を執った課長が、顛末を小説「富士山頂」として纏めている。
そのペンネームは「新田次郎」という。