天使は、ときとして悪魔となる。
ごく普通のボロ靴。 底などは問題無いのに、あるときからクッション入りの表皮に傷が見え出した。 樹脂製の悲しさかもしれない。 ある種の脆化?
修理も出来そうになく、庭仕事に使おうと置いてあった。
少しクッションが入っていて、柔らかくて気持ちが良い、外仕事でも足を守ってくれそうな気がする。
ある夜明けに、聞いたことのない音が聞こえてきた。 少し柔らかくて、ちょっと曇ったような、でも「鋭い音」。 一定のリズムがある。
微睡みの中に閃いた、あれは爪を立てている音。
柔らかくて爪が引っ掛かるのだろう、それが気持ち良さそう。
アミが床に置いてあるその靴に爪を立てる姿は、ピアノを弾いているように見えた。
もう、今更どうでも良いのでそのままにした。
かくして、この行為は咎められることなく、永いこと続いている。
ときには爪が引っ掛かったまま前脚を振るので、靴を飛ばすことも。 ひっくり返り方で天気予報をやっているのかと思う。 最近、アミには紐も解けるのが分かった。
お陰で、ここまでヒドいことに。 まるでカビが生えたように見えるけれど、グレーのところは表皮の剥がされたクッション材の内部。 写真に撮って分かった、綿のよう。
マクロって顕微鏡的に使えるので、思いがけない発見がある。
しかし、まぁ、よくぞここまでボロボロに出来たものだ。
これが許されているからか、他の靴に対して爪を立てることはない。 この靴がサクリファイスとなって、他の全ての靴を悪魔の爪から守っているのだった。 ということは、捨てられない・・・?