或る夜のことでした。
出先から電車で帰り、家へ向かって歩いておりました。
いつもの道、小学校に沿って少しの坂を登ってゆきます。
街灯もあり、それなりに明るいのですが、それが途切れる暗いところもあるのでした。
前後の人影が消えて暫し、人の背ほどのところに薄明るいものが見えたのです。
そして、それが近づいてくる。 それは人の顔のようでしたので思わず身構えました。
「出たな、妖怪。」
少しずつ上下に揺れながら顔だけが近づいて来るのです。
とはいえ、人に恨まれる覚えもないことゆえ、息をひそめて歩みを進めました。
わたしを狙っているのではないと信じて。
街灯の明かりの中をその光る顔が通ったときに、その全身が見えたのです。
それは若い女性のよう。 髪を後ろに纏め、黒いコートを着た姿。
そして、わたしと彼女がすれ違う。
彼女は一心にケータイの画面を見ていたのでした。
胸元に持ったスマホから放たれる光が、伏し目がちに見つめる顔を照らし出す。
明るい画面だけを見ていたら、暗い周囲は見づらかろうに。
夜道でそれは危険だと思うよ、オネエサン。 それに、なんてったって「怖いよ」!
という状況で、写真は有る筈もないのでございます。
(写真はイメージです、実際の彼女とは関係ありません)